雨とみかんとアブシジン酸

さて、真夏のみかん畑のことを少し。

 

 

やっっっっっっっっっと雨が降った。

 

 

7月はいつまで降るのかと心配になり、8月入ると信じられない猛暑。加えて夕立もなし。

暑いと、海からぐんぐん水蒸気が出るのではなかったのか。それが入道雲になり、一気に降り注ぐのではなかったのか。

 

 

夕立を待ちわびて、8月後半は雨雲レーダーとにらめっこする2週間。

太平洋で発生した雲が四国山地を越え、松山に雨を降らせたあと、申し訳程度の量になって近づいては来るのだが、中島上空に差し掛かるとすうっと消えていく。または、左右にちぎれて華麗に躱していく。

8月の中島には結界でも張られていたに違いない。おそるべき瀬戸内式気候。

 

そうなると、みかんの木はたまったものじゃない。

葉は片面だけ焼かれた切り身魚のように反り返って巻き、黄色っぽくなって、木全体がうなだれていく。

涼しい夜には夜露を吸って少し元気が戻るが、翌10時には焼けるような暑さでまたグッタリ……。海からの照り返しが当たる園地では、上から下から熱射されて、両面焼きのハムエッグよ!

それでなくとも、生気のない生き物は見ていて辛くなる。

 

 

しかし、今年は度を超えていたものの、実はこの“グッタリするプロセス”がみかんの糖度を上げる。

近頃は、農産物消費者もデフォルトで農業の知識を持ってたりするので、トマトやみかんが乾燥ストレスによって甘くなるということをご存知の方も多いと思う。そこからさらに、人間存在に投影して、辛い経験のある人ほど優しくなれるなんていう論を展開をする人もいる。

けど、せっかくの農業トークなので、もう少し踏み込んだ話を。

 

さっきは生気のない生き物と言ったが、それは大きな誤解で、植物内では生き残るためのシステムが活発に機能している。

 

乾燥にさらされた葉では、アブシジン酸という植物ホルモンが合成される。(玄米食などではアブシジン酸による間接的な毒性を危惧してる人もいるみたいだけど、みかんは葉を食べるわけではないので今回は全面的にイイやつとして登場)

このアブシジン酸ってやつは乾燥ストレスを受けて、乾燥耐性を高める(気孔を閉じる指示を出して蒸散を減らす)わけだけど、さらには葉緑素の分解を促し、光合成パフォーマンスを低下させる。葉が黄色くなるのがこれ。光合成には水と二酸化炭素を使うわけだから、水不足状態で光合成を抑えようとするのは自然な反応だ。

 

そして、本題の糖の蓄積も、乾燥耐性獲得の一環として行われるらしい。人間に食べられるために甘くなっていたのではない(!)。ここは詳しく調べてないが、おそらくは浸透圧を高めることで、外部から水分を取り込もうという働きなのだろう。

 

かくして、台風10号の外縁にあたる雲が20~30mmの雨をもたらすまで、1ヶ月以上の期間、極度の乾燥状態にさらされたみかんの木々。

見事なまでに葉が巻き、アブシジン酸が大量に生合成されたことは間違いない。あとは、これからの雨で樹勢がもう少し戻ってくれさえすれば、かなりの味が期待できるだろう。

 

(上記、かなり簡略化した話になりましたが、実際は多数の植物ホルモンの複雑な相互作用で植物生理が成り立っているため、話はそう単純ではないです)

 

 

とはいえ、自然環境が急激に変わってきている昨今。小学校で習った瀬戸内式気候の考え方なども、次の30年で通用しなくなってくるのは間違いない。

 

それに合わせて、農業の形も変化を強いられる。もしかしたら、中島がみかんの島じゃなくなるかもしれない。

敏感に変化を捉え、持続可能な農業の在り方を模索していかねば。

 

ネガティブに捉えれば「生きていくのって大変だなぁ…」、ということも言えるが、昨夜話をしていた先輩農家さんは「しかし農業って本当に面白いです」と一言。

その何気ない一言に軽く感動を覚えた。

 

分からないから面白い。

分かればもっと面白い。

分かれば分かるほど、その先で解らないことが出てくる。

つまり、これから農業はますます面白くなる。

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